国籍法を見て行くと、とても不思議な事に気付く。国籍法が最初に発布されたときから、日本国籍の与えられる要件が「日本国籍を有する父の子」なのだ。これは国籍法が発布される以前に、既に日本国籍が存在していたということだ。要するに国籍法には、日本国籍が存在するための初期条件が欠落しているのだ。一体誰が最初に日本国籍を持っていたのだろう。
法文にはないが、順当に考えれば、明治政府が成立して最初に整えた戸籍に登録された人々が最初の日本国民なのだろう。これらの人々は当時、日本で生まれ、生活していたから日本国民になったといえる。
国籍が与えられる要件として、国籍のある者の子に生まれたことを条件とする制度を「血統主義」という。よって、日本の国籍法は「血統主義」をとっている。旧国籍法のように父親からのみ子に国籍を伝えられる制度を「父系血統主義」といいい、現行国籍法のように父親と母親の両方から国籍を伝えられる制度を「両系血統主義」という。因みに、母親からのみ子に国籍を伝えられる「母系血統主義」をとる国はない。調べたところみつからない。
しかし、血統主義だけを採用して国籍を与えるには無理がある。前述したように、そもそも国籍を最初に取得する人の親には当該の国籍がない。その国が成立した時、その国民である人達は、その国の領域で生まれ育った人々だ。一般にその国の領域で生まれた子に国籍を付与する制度を「生地主義」という。国が始まるとき、その国民となる人々は「生地主義」的な要件によって国籍が与えられる必要がある。
また、捨て子など両親の知れない子に国籍を与えるためには、血統主義では適わない。出自が知れないので、親から子に国籍を伝えることが出来ないのだ。こうした場合を想定して、旧国籍法でも「両親が知れず、日本で生まれた子」には日本国籍が与えられるとしている。これは限定的だけれど、生地主義だ。日本の国籍法の様に、原則としては血統主義を採用し、補足的に限定的な生地主義を採用する国は、ヨーロッパに多い。というか、日本の国籍法がヨーロッパの国籍法をひな形にして作られている。
日本が父系血統主義から両系血統主義へと移行したように、ヨーロッパの国々も父系血統主義から両系血統主義へと移行していったという歴史的経緯がある。現実的には、まずヨーロッパが両系血統主義へと移行し、それに追随して日本も両系主義に移行したといった方が正しい。理由は、母親から子へ国籍を伝えられないのは男女差別だからだ。一般的に、長い歴史と伝統を持つ国家は血統主義を採用し、アメリカを代表とする歴史の浅い移民国家は生地主義を採用している。
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