2016年9月30日金曜日

日本維新の会の「公職に係る二重国籍禁止法案」に反対する


日本維新の会が「公職に係る二重国籍禁止法案」を去る2016年9月27日に参議院に提出した。維新の会のホームページで確認すると、法案要綱があって、以下の通りだった。
https://o-ishin.jp/houan100/pdf/outline004.pdf

公職選挙法の一部を改正する法律案要綱

一 外国の国籍を有する日本国民(国籍の選択をしなければならない期間内にある者及び日本の国籍の選択の宣言をした者を除く。)は、衆議院議員及び参議院議員の被選挙権を有しないものとすること。(第十一条の二第二項関係)

二 衆議院議員又は参議院議員の選挙における選挙公報の掲載事項として、外国の国籍の得喪の履歴(外国の国籍を有する者にあっては、国籍の選択をしなければならない期間内にある旨又は日本の国籍の選択の宣言をした旨を含む。)を明記すること。(第百六十七条第一項及び第二項関係)

三 この法律は、公布の日から起算して六月を経過した日から施行すること。(附則第一項関係)

四 その他所要の規定の整備を行うこと。

以上

この法案には反対である。

第一には、この法案の実効性に疑問が生じる。この法案の運用には外国の国籍を有する日本国民を確実に把握する必要がある。外国の国籍を有する日本国民を洩れなく把握するためには、重国籍者名簿を作る必要があると、法務省は過去の国会質疑で答弁している(注1)。しかしその名簿の作成は人権擁護等の観点から問題があり、昭和59年の国籍法改正当初から作らないとしている。この法案は運用上、作成すると人権擁護上問題が生じる重国籍者名簿を必要とするのだから、実効性に問題が生じると言わざるを得ない。

法務省は、複国籍となった者を推定するために、戸籍の記載事項を基にする。このとき、配偶者が外国籍であり、その一方の国の国籍法が配偶者の子に当該国の国籍を与える場合、複数国籍者になっていると推定する。また、日本国民夫妻の子でも、外国で出生し、出生した国が生地主義を取って子に出生国の国籍を与える場合、親から国籍留保届けが出されていれば複数国籍者になっていると推定する。

これはあくまで推定であって、事実外国籍を有しているかは、本人が当該国の国籍を証明する書類等を提示しなければ確定できない。何故なら、親が一方の国に出生届けを出していなければ、複国籍にはなっていない。また、一方の国の国籍留保制度などで、外国籍を喪失している場合などが考えられる。

よって、法務省が複数国籍者名簿を作成しようとすれば、この推定複国籍者にその証明書の提出を求めなければならない。これを確実にするためには、法律によって義務化する必要が生じる。これの義務化は、不当に推定複国籍者を圧迫、差別化するもので、人権侵害である。また、仮に義務化しても、全ての推定複国籍者がこれに応じるとは考えられない。現に、現行法制下で国籍選択を行う者が一割いるかいないかと推定されている状況からすれば、この義務化も確実に形骸化する。

仮にこの法案が可決されたと仮定する。公職選挙法によって複国籍者で日本の国籍選択をしていない者は立候補を拒否される。しかし、戸籍からは本人が複国籍者であることは推定されるが、証明は出来ない。よって、戸籍を基にして当該人物の立候補を拒否することは出来ない。また、日本政府が推定される一方国に国籍の有無を確認しても、内政干渉として拒否される。このように、仮に法案が成立しても、現状では複国籍者の立候補を拒否する術を持たない。

第二に、戸籍の記載事項から推定される複国籍者を一律立候補拒否し、もしその中で複国籍者でなかった者が出たならば、重大な人権侵害行為となる。例えば、上述のように一方の国に出生届けが出されていなかった。また、本人の知らない間に、親が代理人として一方国の国籍を離脱させていて、実は日本国籍しか有していなかった、などの場合が考えられる。

第三に、国籍法では国籍選択しない者の罰則は、法務大臣名の催告だけである。しかも、催告自体が義務ではなく、法務大臣の裁量によるもので、現在に至るまでこの催告は出されていない。このように国籍選択制度は実態として形骸化している。かつ罰則も大幅な裁量の上に立っている。それにも関わらず国籍選択をしないという理由で、複国籍者の被選挙権まで剥奪するのは、法制のバランスを大きく欠くものだ。

この法案は、実効性がなく、その運用に人権侵害の問題を有し、不適切な運用によっては重大な人権侵害を生じさせ、かつ現行法制のバランスを欠く、極めて稚拙な法案といえる。

ここまでは法案自体の考察だが、日本維新の会はこの法案を「蓮舫法案」と呼んでいる。理由は、蓮舫氏は国籍選択をせず、台湾国籍の維持を続けていた。これの釈明も二転三転し、経歴詐称、旅券虚偽申請疑惑があるからだという。

しかし、これは蓮舫氏の個人的な事柄である。この件で、今回の法案に関係するのは、蓮舫氏が台湾国籍を有していた点と、国籍選択をしていなかった、という点だ。

蓮舫氏が国籍選択をしていなかった、それをとってこの法案提出は飛躍のし過ぎだ。複国籍者が期限を過ぎて国籍選択をしていなくても、法務大臣の裁量による催告を受けるだけである。催告を受けた後に国籍選択をしても合法の範囲である。なお、蓮舫氏は自身の判断によって、催告前に台湾国籍を離脱して、日本国籍を選択している。

また、蓮舫氏が台湾国籍を有していたことを問題視するなら、台湾国籍だけを問題視すればいいだけであって、全ての複国籍者の被選挙権まで剥奪させる必要はなく、これもあまりにも飛躍のし過ぎである。

公職者の複国籍全般について問題視するなら、蓮舫法案と呼称するのはおかしい。外国籍には、アメリカ合衆国、カナダ、フランス、イギリスなどの国も含まれるし、蓮舫氏は大勢いるうちの一人の複国籍者であったに過ぎない。蓮舫という個人名への象徴化は馴染まない。

よって、この法案を「蓮舫法案」と呼ぶのは不適切と言わざるを得ない。

蓮舫氏が注目されるのは、氏が民進党の党首であり、民進党が仮に政権を取れば、蓮舫氏が総理大臣になるかも知れないとの予測からだ。一国の代表が複数国籍者でいいのか、という議論は成立の余地がある。しかし、それはそういうことも前提とした選挙で結果を出せばいいことだ。本法案のように、法律で人権を侵害してまで、国籍を理由として被選挙権を剥奪し、公職者資格を制限するには及ばない。フジモリ元ペルー大統領は、ペルーと日本の国籍を有していたことが知られている。フジモリ氏は日本の参議院にも立候補したが、複国籍を理由とした批判は聞かれなかった。

外国では複数国籍者の外交官もいる。それで問題は起きていない。英国のボリス・ジョンソン現外相は、ニューヨークで生まれ米国籍も保有する複数国籍者で、2012年には米国のパスポート(旅券)を更新している。(注2)

また、台湾籍であったから氏を批判の対象としたのなら、特定の国籍を持つ者をその国籍を理由に差別することであり、卑劣である。台湾人はスパイではないし、台湾人は日本の治安悪化を望んでいない。台湾人は平和で豊かな社会を望んでいる、善良な人々がほとんどである、と考えるのが自然だ。であれば、台湾籍を併せ持っていたとして、日本の国会議員としての欠格事由は存在しないし、むしろ日台の友好関係に寄与し、日本の国際化に有益ですらある。喧伝するデメリットより、よほどメリットの方が多い。

また、氏の一方の国籍がアメリカ合衆国だったら、果たしてこれだけ問題視出来ただろうか。国民はむしろ歓迎的であったかもしれない。それにアメリカ合衆国の国籍をいたずらに政治問題化させれば、外交上にも悪影響を及ぼすだろう。アメリカは、日本は自国民を、アメリカ国籍を持つとの理由だけでスパイ扱いなどをすると受け止めるだろう。日米関係に悪影響を与える可能性がある。

日本維新の党は、蓮舫議員を攻撃するために、複国籍を政治利用している。複国籍者は違法な存在であるといわんばかりに差別し、さらに台湾籍を中国籍とリンクさせ、台湾も中国だといわんばかりに敵視している。これは日台友好関係にもひびを入れるものだ。この法案も、その道具の一つとして参議院に提出されたものと言わざるをえず、その政治手法は卑劣かつ低俗である。選民的な純血主義の発想であり、平和で豊かな社会を望む国民の利益など毛頭も顧みられていない。加えて法案自体も稚拙である。

この法案は、廃案とされなければならない。


(注1)
衆議院法務委員会議事録 平成十六年十一月十七日(水曜日)
 政府参考人  房村 精一 法務省民事局長
房村政府参考人  この「国籍選択について」という文書の通知について、必ずしも重国籍の方々すべてには行っていないという点につきましては、これは重国籍の方々を漏れなく厳格に把握しようと思いますと、重国籍者名簿といったようなものを国の責任でつくらざるを得なくなるわけでございますが、そのような管理の仕方をするということは、国が重国籍者を差別的に扱っているという誤解を招きかねないということから、この国籍選択制度を創設した当初から、そういった漏れなく把握するような仕組みはつくりませんということといたしているわけでございます。

(注2
愛国化する世界──蓮舫氏の二重国籍とフランスの「国籍と名前」論争 木村正人
http://www.newsweekjapan.jp/kimura/2016/09/post-19_3.php