2014年6月27日金曜日

複数国籍を考えるエッセイ3 国籍取得と喪失の変遷

日本において国籍に関する法律は「国籍法」で規定されている。では、日本政府は日本国民に対して、法律によってどのように国籍を与えたり奪ったりしているのだろうか。意外な事に、日本の国籍法は日本人に国籍を保証するだけでなく、喪失をさせたりもしているのだ。

日本の国籍法はおおまかに4回の変遷を経ている。(1)まず最初が、明治32年発布の旧国籍法(國籍法・明治三十二年法律第六十六号)。(2)次が戦後に全面改定された現行国籍法(昭和二十五年五月四日法律第百四十七号)。(3)次いで、現行国籍法が昭和59年に改訂される(昭和59年法律第45 国籍法及び戸籍法の一部を改正する法律)。(4)最後に、恐らく皆さんの記憶に新しい平成20年の現行国籍法の一部改訂(平成20年法律第88 国籍法の一部を改正する法律)。

(1)  最初の旧国籍法では、以下に該当する場合日本国籍が与えられた。
・父親が日本国籍を有している子。
・父親が知れず、母親が日本国籍を有している子。
・両親が知れず、日本で生まれた子。
・日本人の妻になった女。
・日本人の入り婿になった男。
・日本人の父又は母に認知された子。
・日本人の養子になった子。
・帰化した者とその妻子。
次いで、以下に該当する場合日本国籍が喪失された。
・外国人と結婚した女
・自己の志望によって外国籍を取得した者
・結婚や養子によって日本国籍を得た後、その縁組の解消をした者(ただし、兵役を経た17歳以上の男子は除く)

(2)戦後の現行国籍法では、以下に該当する場合日本国籍が与えられた。
・父親(出生前に死んでいても)が日本国籍を有している子。
・父親が知れず、母親が日本国籍を有している子。
・両親が知れず、日本で生まれた子。
・帰化した者。
次いで、以下に該当する場合日本国籍が喪失された。
・自己の志望によって外国籍を取得した者
・外国に生まれたことによって外国籍を取得した子で、出生より14日以内に国籍留保届けがされなかった子。

(3)  昭和59年の改訂によって以下に該当する場合、国籍が与えられた
・父親(出生前に死んでいても)あるいは母親が日本国籍を有している子。
・両親が知れず、日本で生まれた子。
・婚外子で、父より生前に認知された子、あるいは未成年のうちに父母が結婚した子。
・帰化した者。
次いで、以下に該当する場合日本国籍が喪失された。
・自己の志望によって外国籍を取得した者
・出生によって外国籍を取得し、外国で生まれた子で、出生より国内において1か月、国外において3か月以内に国籍留保届けがされなかった子。
・外国籍を有した者で、期限内に国籍選択をせず、法務大臣名の文書による催告を受けた後一か月を経過した者。(ただしこれは法務大臣の裁量によるもので、今日現在催告がなされたことはない)
・外国籍を有したもので、外国において当該国籍の選択をした者。

(4)  平成20年の改訂では、婚外子に関してのみ、以下の要件のように国籍取得が緩和された。
・外国人の母より生まれ、日本国民の父に認知された未成年の子。
(以前はその子が生前に認知される必要があった)

補足であるが、日本国民が日本国籍を離脱することについては、旧国籍法にはその規定がなく、戦後の現行国籍法から盛り込まれている。戦前においては一度取得した日本国籍は、自らは離脱できなかったということになる。ただし、現行国籍法においても、国籍離脱が出来るのは外国籍を有する日本国民に限られる。日本国籍しかない者は、今も昔も日本国籍を離脱することは出来ない。

但し、日本国憲法の第22条2項には「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない」とある。無国籍者を作らないという国際的な努力の観点からすれば、無国籍にならない為の制限が国籍法にあるのはやむなし、との見方も出来なくはない。皮肉なのは、外国籍を自己の意志で取得した者は、日本国籍を離脱するどころか、強制的に喪失されられるのであって、全く憲法の保障する国籍離脱の自由によるものではない。


名城大の近藤敦教授は、憲法第22条2項の国籍離脱の自由権は、国籍維持の権利と対になっていると解釈すべきで、現行国籍法の強制的な国籍喪失条項は、憲法に抵触する疑いがあるとの見解を示している。

2014年6月23日月曜日

複数国籍を考えるエッセイ2 国籍と戸籍

国家が国民に国籍を付与するためには、何らかの手段で国民を管理しなければならない。アメリカでは個人単位の国民管理を行っている。欧州では主に家族単位での国民管理を行っている。例えばスイスの各家族は家族手帳を有していて、これに変更が生じた場合、居住地の役所に届け出を行わなければならない。大別すると、このように、個人単位の管理か、家族単位の管理かにわけられる。

日本では戸籍と呼ばれる、世界でもユニークな形態による家族単位での国民管理を行っている。戸籍はそもそも中国が発祥の人民管理法で、戸と呼ばれる家族集団単位で管理したことに由来する。そもそも戸籍の目的は、税金の徴収、徴兵の為で、間違っても人民への福利厚生に資するなどというものではなかった。目的が徴税、徴兵だから、男しか登録もされなかった。

日本も飛鳥時代からこれを取り入れ、戸籍の整備を試みている。しかし、戸のない日本では定着しなかった。戸籍は放棄され、江戸時代では宗門人別帳などで管理された。明治維新が起きると、再び戸籍制度が導入されたが、明治の戸籍は戸ではなく、家制度という家長を頂点とする家単位の管理制度だった。戸籍というより、家籍だ。そして戦後になって、夫婦を基本とする現在の戸籍制度が整えられた。因みに戸籍の発祥の地である中国では、既に形骸化しているのだそうだ。戸籍制度は世界でも日本のみで未だ機能している稀な国民管理制度といえる。

戸籍は先述したとおり、そもそも徴税、徴兵のためのものであるから、文明開化の後、明治政府により速やかに整えられた。明治4年には既に戸籍法が発布されている。これに対して、日本国民の身分を保証する国籍法はそれより28年遅れる事、明治32年になって初めて発布されている。

明治政府は国民の国籍管理など関心がなかったのだろう。政府の管理下にある国民から税金が取れ、徴兵できれば十分であることは容易に伺える。しかし近代国家への整備の過程で、日本国民の地位を規定、保証する法律が求められた。それで仕方なく西洋の例を基本にして法整備した、という観が否めない。国籍法は発布されたが、その国籍法には国民の国籍を管理する方法についての記述がない。実は現行の国籍法にもそれはない。

政府の回答によれば、日本国籍の管理は戸籍によるという。国籍法によって日本国籍を有する者は、戸籍を登録する義務が生じる。よって日本国籍のある者は戸籍登録されるから、戸籍によって管理が出来るという寸法になっている。ところが、前述したように、日本国民が戸籍登録を拒否される場合がある。あるいは国籍法を知らず、日本国籍を有しているにも関わらず戸籍登録していない、という人もいる。反対に、日本国籍を喪失しているのに、それを知らず戸籍を抹消していない、という人もいる。


国籍管理という面では、戸籍には不備があるのだ。特別な事情を勘案した柔軟な出生の登録や、自動的に国籍を失う制度についての改善を行わないと、こうした問題を解決することは出来ない。

補足だが、明治政府は当初から西洋人と日本人との国際結婚が増えることを予測していた。そこで、明治6年に太政官布告第一〇三号「内外人民婚姻条規」が発布され、政府の許可によって国際結婚が認められことになった。この内外人民婚姻条規に「一、外国人に嫁したる日本の女は【日本人たるの分限】を失うべし・・・」という文言が出てくる。旧国籍法が発布され、日本国民が法的に定義されるまでは、日本人であることについては【日本人たるの分限】が用いられた。この期間は個人の国籍と「家」の一員としての身分が未分化なことから「分限主義時代」とも呼ばれる。

2014年6月22日日曜日

エッセイを書いてみて・・・

エッセイを書いてみたのですが、なんか堅苦しいかなぁ、と思ったりします。日本が国際化すればするほど、日本人は外国に行き、外国人は日本に来ます。観光で、家族訪問で、移民で、仕事の為、結婚で、など色々な理由で、日本人が、外国人が、相互に行き来します。

国際結婚などはまさしく愛は国境を超える、微笑ましい行為だと思うのですが、日本の国境の壁はまさに愛の障壁という印象を拭えません。何故欧米の様にいかないのか、頑なに遅れたままなのか、そんなもどかしさも感じる今日この頃です。

しかし、現状を変えて、日本にも「愛は国境を超える」環境を整えるためには、やはり日本の過去を知り、歴史的経緯も考慮の上に立って、現実的には何から改善すべきかを知らなければならないでしょう。

国、制度、歴史、そうしたものの共通認識が土台とならなければ、こと日本では! 愛が国境の壁に負けてしまいます。ということで、暫くは「愛」とは関係の薄い、国家や国籍の土台の部分に焦点を当ててみたいと思っています。

またゆくゆく、日本を離れ、海外で活躍する人の為にもなれればと思います。さらに日本人と外国人が、双方に互恵的環境を築けるならば、それに越したことはありません。私も仕事のもつれで、スイスで訴訟問題を起こした経験があり、現実の厳しさは感じていますが、それで閉じこもっていたのでは発展がありません。

次回のエッセイは、「国籍と戸籍」について触れます。

2014年6月20日金曜日

複数国籍を考えるエッセイ1 国家と国籍

複数国籍について、つらつら考えてみたい。

日本人にとって日本国籍があることはほぼ当然なことなのだけれど、日本に住んでいる日本人にも日本国籍がなかったり、世界中には国籍がない人が約1200万人もいる。例えば、日本では日本人の両親から生まれたのに、出生届けが受理されず、戸籍がないため無国籍の状態にある人が存在する。これらは国際的な問題で、無国籍をなくそうという努力が国際的にされている。

国籍があるためには、国家が存在し、その国家の法律によって国籍が付与される、という条件が必要だ。だから、国籍が与えられなかった場合、国家が存在しない場所で生まれ育ったか、帰属していた国家が消失してしまった、などという場合が考えられる。2004年の映画『ターミナル』では、主人公の帰属する国家がクーデターで消滅し、アメリカに入国できず、空港のターミナル内での生活を余儀なくされたが、これなどが一例として考えられる。

また、国家が存在しているにも関わらず、その国家の法律によって、国籍の付与が成されない場合がある。日本で話題になった例は、夫の暴力の為家出した妻が子を産み、出生届けを出そうとしたが、失踪者扱いになっているため届け出を受理されず、子供が無戸籍となってしまった例などがある。法的には無戸籍であっても、日本国籍は存在するのだけれど、パスポートも作れないし、就学の通知も来ない、選挙権も停止される。この様に事実上は日本国民の扱いを受けないから、無国籍の状態と同じになってしまう。またラトビアという国はソビエト連邦から独立した歴史的過程で、国内在住のロシア人など約35万人が未だ無国籍でいる。

調べてみると、無国籍というのは世界的な問題で、かつ日本でも存在するのである。では、国籍の前提となる国家とはいったいどういうものなのだろうか。

国家の三要素というものがある。この三つが揃わない限り、国家は存在しない。それは、領域、人民、権力ないしは主権の三つ。領域、人民というのは大変わかりやすいが、権力というのはわかりにくいかも知れない。権力はおおざっぱに言えば、正統な統治機構、政府だ。だから国家は、権力が領域と人民を内外の干渉を許さず統治する存在と定義されている。

国際的には、この三要素を他国が承認して初めて国家として認識される。これもややこしい。例えば、ある国が独立したとする。それを他国家が承認すると、それを承認した国々では、その国は国として認められる。しかし、承認していない国では、国家として認められないから、承認していない国では、その国民の国籍も存在しない。例えば、日本は台湾を国家として承認していないから、日本国内において台湾国籍は存在しない。


日本の様に長い歴史を持つ国は、国家が悠久に続くという認識を持ちやすいが、大陸の小国などは、国家の存在は実にあやふやなものと言わざるを得ない。そして国籍があるということも、実はあやふやな地位なのだろう。

2014年6月8日日曜日

2014年複国籍容認の請願署名協力のお願い


複国籍PT 代表 高川憲之

私たちは、生まれながらに複数国籍を有する人や海外で生活する人たちが、安心してより活躍の場を広げることが出来るように、以下の国籍法の改正を日本の国会に求めています。

1.       形骸化した国籍選択制度の早急な廃止
2.       複国籍を容認している一方の国との相互主義的な複数国籍の容認
例えば、アメリカ合衆国、カナダ、フランス、スイス、イタリア、ドイツ、イギリス、オーストラリアといった欧米、オセアニア複国籍容認諸国等と相互主義に基づき個別に容認する。

複数国籍の容認は、間違いなく日本人が世界で活躍する機会を増やします。在外邦人やその家族にとっても大きなメリットがあります。当然に日本国にとっても、特に国際的な人的資源や情報資源、あるいは経済的資源の確保に寄与します。【藤田一枝衆議院議員質疑要旨(2004

 欧米などの先進国は程度の違いはあっても、みな複国籍を容認しています。二重国籍容認傾向2010】複国籍の容認は、国外生活者のみならず、在住国にとってもメリットが多いのです。また、日本人が世界でより活躍しやすくなります。特に在外邦人とその家族にはメリットとなります。 一方で、国際結婚の増加もあって、生まれながらに複数国籍を持つ日本人は年々増加しており、現在の複国籍を原則的に認めない法律は形骸化しています。しかし、それによる社会不安は起きていません。在外公館等では、複数国籍者から日本国籍を喪失させないような配慮をしているところもあると耳にしています。しかし複数国籍を持つ日本人にとって、現行国籍法のもと日本国籍喪失のリスクは消えていません。日本弁護士連合会も2008年に複数国籍の容認を求める提言を公表しています。

 法務省は複国籍容認に関し、重婚、外交保護権、忠誠の衝突などのデメリットがあると指摘していますが、複国籍容認国でこれらが問題になったことがありません。【国籍短報2003】日本においても現行法下で、今や複数国籍者は100万人を突破していると推測されていますが、その様な状況にあっても、これらのデメリットが問題になったことはありません。【宇多田ヒカルもフジモリ前大統領も/「二重国籍」容認が国を変える(2001

 わたしたち複国籍PTは2001年より、複数国籍を容認する国籍法改正を求める請願を、日本の国会に毎年提出しています。非営利で活動しており、特定の政治団体・宗教団体とは一切関係がありません。当会会員の多くは在外邦人、国際結婚の当事者や家族です。

 2013年の国会請願署名には2037筆の署名が集まりました。過去には年間で5000筆を超える署名が集まっています。ご協力に深く感謝致します。署名数が多くなれば国会もメディアも注目します。是非ともこれまで以上の署名協力をお願い致します。

当会で法務大臣陳情を行った際、法改正には国民の議論の高まりが必要との見解が示されました。よって国会請願の継続は私達の要望を示し、立法の場で議論を高めるためにも重要です。署名は提出された国会の会期のみ有効で、その国会が終わると全て無効になります。よって、この請願が取り上げられ、国籍法改正となるまで、毎年請願を続ける必要があり、署名が必要なのです。一度請願に署名された方も、それはその年のみ有効だったので、今年も新たに署名協力をお願い致します。できれば毎年ご協力をお願いします。

 請願の署名方法ですが、下記URLにある請願書あるいは署名用紙(PDFファイル)をダウンロードして下さい。署名は自筆の場合押印の必要はありません。しかし、代筆や名前を印字した場合は、ご本人の押印が必要です。署名出来るのは、日本国内に住む日本人及び外国人と日本国外に住む日本人です。子供も署名できます。日本国籍を持たない方は、住所を日本国内にしてお願い致します。ホテルなどの滞在先でもかまいません。署名の提出期限は12月31日です。署名の送付先は署名用紙に印刷されております。どうか皆さんの積極的なご協力をお願い致します。
請願書・署名用紙リンクhttp://www.kouenkai.org/ist/seiganf/index.html

複国籍PT (旧名IST請願の会)リンクhttp://www.kouenkai.org/ist/index.html

2013年の請願署名報告

いつも複国籍容認の請願署名にご理解とご協力ありがとうございます

2013年の署名数は2037筆でした。
皆様のご協力、大変ありがとうございます。

この署名を持って、2014年の請願活動を行います。

今通常国会へは
衆議院が 横路孝弘議員(民主)
参議院が 福島みずほ議員(社民)
の紹介で請願書が提出されます。

秋の臨時国会へは
同じく 横路衆議院議員と福島みずほ参議院議員の紹介で国会提出する
予定です。

2013筆の署名は
通常国会、衆577筆 参561筆 計 1138筆
臨時国会、衆457筆 参442筆 計 899筆
に分けて提出されます。

これとは別に国会議員への陳情も予定しています。

また、2015年の請願活動に向けての署名集約も6月より始めたいと思います。
今年は初動が遅れており、大変申し訳なく思っておりますが、引き続き皆様の
ご理解とご協力をお願いいたします。