2010年11月18日木曜日

民主党幹事長室団体要望報告書抜粋

団体要望報告書

平成22年10月23日
団体名 複国籍PT
役員構成 代表:高川憲之、副代表:鍵谷智・仲晃生
紹介元 衆議院議員 土肥隆一
要請先省庁 法務省

要望内容:

1.最重要点として、形骸化した国籍選択制度の即時の廃止。

2.菅総理も書かれている(2004年9月6日)、他国との複数国籍を認める要件の早急な
緩和。例)日本と国交のある国で、一方の国が複国籍を容認している場合、日本もそれ
の申請によって容認する(相互主義)。

3.日本弁護士連合会が人権救済の観点から意見書を公表し(2008年11月19日)、提言
している、「国籍留保制度、自ら他の国籍を取得した場合の国籍喪失制度について、
複数国籍保持を容認する方向での国籍制度の改正。」
例)欧米諸国で採られている一般的な複数国籍容認の法制度、あるいはそれに近いもの。

要望説明:

国籍選択制度の廃止、複数国籍の容認の請願は2001年に最初に提出されました。複国籍PTにおいても、2002年より毎年、複数国籍の容認を求める請願を提出しております。当請願団体の請願は、2002年より一貫して、民主党国会議員の先生方から国会に提出されました。複国籍関連請願を紹介して下さった先生方は約80名に上ります。その中には先の首相、鳩山由起夫先生もおられます。

2002年には、大出彰元衆議院議員が憲法調査会で複国籍の質疑を初めてされ、続いて2003年千葉景子前参議院議員が法務委員会で質疑をされました。2003年には「国会図書館発行 レファレンス短報 重国籍-我が国の法制と各国の動向」が発行され、現在の国籍制度は見直しの時期に来ているとの指摘がされています。

2004年には前例のない、衆議院法務委員会の欧州法制度視察団と複国籍容認を求める陳情者団体との懇談会がパリで行われました。これは民主党、佐々木秀典、山内おさむ両元議員のご尽力によるものでした。複国籍PTはこの年、民主党の法務部門会議に出席し、複数国籍の容認を求める説明を致しました。この席では中井洽議員が民主党でプロジェクトチームを作り複数国籍容認を法制化する方向で検討すべきだと発言されています。その後、松野信夫現参議院議員、藤田一枝衆議院議員が国会質疑を行って下さっています。

2007年に岩國前衆議院議員は、私どもの陳情に合わせて、決算行政監視委員会で国会質疑をされ、それを傍聴させて下さいました。2008年には当時の江田五月参議院議長への議長陳情、2009年には当時の千葉景子法務大臣への大臣陳情もお受け頂きました。江田前参議院議長へ議長陳情の際には、ツルネン・マルティ参議院議員のご同行を頂いております。

菅総理大臣は2004年9月6日にご自身のブログで、世界中で日本人が仕事をし、生活しており、国際結婚も増えている中では、日本と他国の2重国籍を認める要件は緩和されるべきだ。私としても検討して見たい。と書かれています。

民主党は、常に当請願団体の活動にご理解下さっておりますが、残念ながら、未だ法改正に至っておりません。法改正に必要な検討チームも政権党になってから、未だ民主党に存在していないと藤田一枝議員から聞き及んでいます。初請願から9年が経ち、民主党は政権与党となりました。当団体としても大変喜ばしい限りですが、複国籍の容認は人権救済につながる待ったなしの問題です。民主党歴代首相も容認すべきとの認識でいる、この課題を是非とも早急に取り組んで頂きたく、そして早急な法改正をして頂きたく、ここにお願い致します。

日本弁護士連合会の意見書(2008年11月19日)の要旨は以下の通りとなっています。

1.異なる国籍の両親から生まれた複数国籍者や、外国籍者との婚姻等に際して自動的に複数国籍者となった者については国籍選択義務の適用がないように国籍法を改正すべきである。
2.国籍法が改正されるまで、同法15条1項に基づく国籍選択の催告をしない運用を維持されたい。
3.国籍留保制度、自ら他の国籍を取得した場合の国籍喪失制度についても、複数国籍保持を容認する方向での国籍制度を検討すべきである。

日本弁護士連合会の公表によれば、この意見書は民主党にも提出されていますが、この提言は人権救済の観点から出されたもので、日本の国籍制度によって、国籍選択を迫られている日本人や日本国外で暮らす日本人の人権が保護されない、そういう問題点を一つとして指摘しています。人権救済は早急になされるべきで、いつまでも放置すべきではありません。

日本政府が指摘している複数国籍によるデメリットは、主に法制度の抵触、忠誠の衝突、外交保護権の衝突、兵役、参政権の問題があります。これは日本弁護士連合会も指摘していますが、過去に複数国籍の容認国で問題になった例がありません。全ての問題が調整可能ということです。また、日本でも22歳まで複数国籍が実質容認されており、約60万人の複数国籍者がいますが、法制度の調整もなしに、問題となった例がありません。

複数国籍のメリットは、国際的に活動する人や国際結婚家族の生活や人権を保障し、豊かな社会構築に寄与する事にあります。欧米ではこの家族の生活権の尊重から、複数国籍の容認が潮流となりました。また、藤田一枝衆議院議員が国会で指摘されましたが、大局的にも(先のノーベル賞受賞などでも指摘された通り)、人的資源の確保に寄与します。国際的信頼、戦争抑止、外交上の影響力にも寄与します。

国際情勢が変化した現代では、複数国籍はデメリットであるとは考えられておらず、むしろ国際社会の中でメリットの多いものとなっています。複国籍を制限して行く方向にある国は皆無です。逆に年々複国籍の容認国が増えています。最近ではお隣の韓国が容認国となりました。ヨーロッパでは非常に制限的だったルクセンブルクが完全な容認国に移行しました。

韓国などは、こうした複国籍のメリットに敏感に反応して、そのメリットを求めたものと思います。日本は、石橋を叩いて渡る性格が災いして、ここにおいて世界の潮流から取り残されています。これでは日本の真の国際化は遅れる一方です。複数国籍者は、文化、社会、政治の場面で大変貴重な橋渡しをする、それぞれの国の重要な人材となります。

複数国籍を容認する国は、欧米では全ての国がそうなっています。ドイツは制限的ですが、実際には特例申請によって半数以上が複数国籍の維持を認可されています。今や先進国で、複国籍を頑なに認めない国は日本だけです。アジアにおいても、インドネシア、フィリピン、そして韓国と、複国籍は容認の潮流を見せています。

日本の現行法制度の中でも問題があります。松野衆議院議員も、国会質疑で指摘されていますが、
・現行の国籍法は、事実上複国籍を容認する者を作っており、不平等を生んでいます。
・国籍選択制度は形骸化しています。

今や法務省の把握する人数だけで、約60万人以上の複国籍者がいますが、約9割の複国籍者が国籍選択をしていません。この数は年々増加の一途を辿ります。また、自己の意志で他国の国籍を取得し、国籍法上日本国籍を喪失していても、国籍喪失届を出さず、日本国籍を維持している人が相当数存在しています。

日本弁護士連合会も指摘していますが、政府はこうした事態に今まで何らの対処もして来ませんでしたし、国による強制的な国籍喪失は重大な事態を招くため、慎重である姿勢を崩していません。この法制度は形骸化しており、法律的な合理性を失っております。

現時点の世界の流れや、日本政府もが実態として複数国籍の排除のためにこだわっているとは考えられないことに照らせば、現行国籍制度の維持を正当化する理由はもはや存在していません。

国籍法の改正に当たっては、一部のネット右翼と称される、特に中国・朝鮮を差別する集団から激しい反対が予想されます。しかし、この反対は特定外国人への差別感情から起こるもので、多くの国民は冷ややかでいます。そうした外国人差別の助長は、日本の国際化への障害になるばかりか、治安悪化の一因ともなります。

是非とも、民主党はそうした集団から毅然とした立場にいてもらいたいと要望します。前回の国籍法改正においても、この偏った右翼の集団から激しい反対がありました。しかし法改正は、それは社会が正しい方向に進む道標となりました。複国籍の容認は、まさにそれと同じです。

民主党幹事長室団体要望並びに法務省政務官陳情の報告

写真:法務省政務官室にて、左より、ヘアリチュケ、鍵谷、高川、黒岩法務政務官
 
民主党幹事長室団体要望並びに法務省政務官陳情の報告

複国籍PT 代表 高川 憲之

平成22年11月9日、複数国籍を容認する法改正を求める要望を要望団体、複国籍PTとして、民主党幹事長室に行いました。この団体要望に際し、複国籍PTからは代表 高川憲之、副代表 鍵谷智、会員 ヘアリチュケ薫の3名が参加しました。

民主党幹事長室の担当者は、企業団体委員長代理 柚木道義衆議院議員、陳情要請対応本部副本部長 津村啓介衆議院議員でした。民主党からは、この団体要望を民主党幹事長室にあげて下さった、土肥隆一衆議院議員並びに土肥隆一事務所野村秘書が同席されました。

民主党幹事長室団体要望は国会議事堂内にある第15会議室にて、午後1時より行われました。この幹事長室要望は、政権与党である民主党の政策に影響を与えるもので、なおかつ要望団体には、民主党としてその要望内容にどう対応していくかが明確になるものと聞いており、当要望団体としても、大変重要なものと受け止めていました。

要望内容については、事前に文書で報告しており、今回の団体要望はさらに幹事長室に対して当事者団体の直接的な訴えかけを聞いてもらうというものでした。当然、文書だけで要望を行うより、訴求力が高まります。また、この団体要望会談が実現されるということは、民主党としても重要度の高いものという認識があっての事と考えています。

会談冒頭、柚木議員より、弊団体の要望については以前から知っていたこと、これが民主党の政策事項にも挙がっており、今後対応して行かなければならないことである、という認識を示されました。しかし、直ぐにという運びには至っていないことも説明されました。

これは、従来からの民主党の姿勢です。民主党は以前より、複国籍の容認に肯定的であるけれど、具体的な法改正に向けた動きを与党として示していません。そこで、弊会としては日本弁護士連合会の提言を例にして、国籍選択制度などは人権侵害が危惧される問題で、いつまでも放置できるものではない、しかもこの制度は形骸化しており、合理的な法根拠も失っていることを強調しました。

「複国籍の容認には、いくつかのレベルがあり、日本は現在これについて極めて不寛容な制度を持っている。先進国では日本だけが不寛容な制度を貫いており、アジアに目を移しても、インド、インドネシア、フィリピン、そして本年に入って韓国が容認国に転じた。日本は国際的な潮流に乗り遅れている。もう検討を行っている場合ではなく、出来るところ、例えば国籍選択制度の廃止などから即時に着手してもらいたい。」

「また成人の複国籍容認においても、例えば複国籍を容認している国との相互主義による複国籍を容認するなど、先進国において閉鎖的な国籍制度を持つドイツに並ぶ程度にまで、複数国籍の容認条件を緩和してもらいたい。複国籍を容認した国家で、今まで社会問題が発生した例もなく、日本においても現在60万人以上の複国籍者がいるにも関わらず、それによる社会問題が発生している例もない。」

「一方、複国籍の容認は国際結婚家族や生まれながらの複国籍者にとって大変な助けになる。少子化社会にとって、人材確保にも寄与し、外国人の社会統合への一助ともなる。」以上の様な説得を、要望説明書に沿って担当者に対して直接行いました。

津村議員からは、外国人参政権と複国籍容認の関係について質問がありました。両者はどのような関係があるのか、例えば複国籍が容認されると、特別永住者がどれだけ日本に帰化すると考えているか、といった質問がありました。

この質問に対しては、代表高川の個人的な見解として回答しました。「外国人参政権と複国籍容認は外国人に対する人権擁護において、補完的な関係にある。外国人の人権は制限されており、様々なレベルがあって、これを一つの政策で解決することは出来ない。いくつかの政策が、その様々なレベルに対応するように取られるのが望ましい。両者はそうした関係にある。」

「国籍には個人の側からみると、アイデンティティに関わる側面を持つ。外国人永住者の中には、一つの国籍を基にしたアイデンティティを望む者もいる。すなわち、在日外国人の全てが日本国籍を望むものではなく、特別永住者の中にあっても、自己の国籍のあり方には様々な受け止め方が存在している。日本国籍の取得を望まない人も当然いる。弊会と特別永住者関連団体には交流がない。これは、複国籍の容認が直接的に全ての特別永住者への利益につながるものではないことが、一因になっていると思われる。」

「しかし、在日2世、3世と言われる方々には、例えば日本国籍を維持したまま、韓国籍を再取得したい、あるいはその逆で韓国籍を維持したまま、日本国籍を取得したい、という人もいる。特別永住者の子孫が日本に定住し、両国の絆を大切にしている表れだ。複国籍が容認され、具体的に何人程度の特別永住者が日本国籍を取得するのかは、私たちには推測出来ないけれど、必要とする人々にとっては切実な問題であることは理解して頂きたい。」

「国籍法の改正は、前回と同様にヒステリックな反対が予想されるけれど、現行の国籍制度で生活に制限を受けている人、苦しんでいる人がいる以上、早急に毅然とした態度で複国籍を容認する法改正を行ってもらいたい。また、外国人参政権が先で、複国籍の容認はその次といった受け止め方があるのなら、見直してもらいたい。何故なら、複国籍の容認は人権侵害の解消という火急な事案でもあるからだ。」

以上の様な要望・説得を行いました。これを受けて幹事長室の担当からは、外国人参政権が先、といった順番があるわけでなく、それぞれが同じく重要な課題であると受け止めている。複国籍の容認に対する要望はよくわかったので、民主党内でも努力して行きたい、といったコメントを頂きました。

最後に高川の方から、努力して頂けるのは大変有難いのですが、もう実際に動くという態勢でお願いします、と念を押しました。


民主党幹事長室との団体要望の後、土肥事務所のお計らいで、この法改正の担当省庁である法務省へ陳情に向かいました。当初は民事局担当者に対する陳情の予定でしたが、黒岩たかひろ法務政務官が特別に時間を割いて下さり、政務官陳情を受けて下さる事となりました。政務官は、大臣、副大臣に続く地位にある人です。

複国籍PTの法務省陳情は2回目で、1度目は千葉景子前法務大臣への大臣陳情でした。今回は政務官ですが、政務官は実務において大きな権限があると聞いていますので、法務省への働きかけとしては大変重要なものと受け止めています。政府高官に陳情しようとしても、なかなか出来るものではないので、この機会を設けて下さったことに関しては大変感謝しています。

黒岩政務官との会談は法務省の政務官室で行われました。民事局の担当者も同席されていました。これは緊張しますが、陳情における最高の機会であったと思います。

冒頭、黒岩政務官が、「民主党が政権与党になり、請願の紹介が出来なくなって申し訳なく思っている。しかし、重要な問題であることは認識している」と述べられました。「ただ、法改正に至るまでには、もう少し世論の熟成が必要ではないか」、との認識も示されました。法改正を求める声がまだ小さい、と受け止めているようです。政務官としての立場からの発言なので、法務省民事局の見解でもあると推測しました。

そこで複国籍PTとして、政務官の見解と、私どもの見解では少なからず違いがある事を訴えました。その概略は以下の通りです。

「2001年より法改正を求める請願を毎年提出しており、請願紹介議員も約80名になっている。民主党歴代の総理大臣も、過去複国籍の容認には賛成の立場にいた。しかし、法務省民事局の国会答弁は常に、国民的な議論の深まりを注視したいという立場に留まったままだ。」

「2007年には、岩國前衆議院議員が複国籍PTの陳情に合わせて、国会質疑をし、それを弊会代表高川に傍聴させてくれた。その中で、もう日本の社会は複国籍を受け入れる素地が十分に出来ている、熟成した社会にあると述べられた。国会質疑は、国民的な議論の代表だ。自民党からも容認の声が上がっている。河野太郎議員は自民党の国籍PTの座長として、複国籍を容認する座長試案を発表した。」

「2008年には日本弁護士連合会が複数国籍の容認に関する提言書を公表している。ノーベル賞学者である江崎博士も、日本の科学発展の為には、複国籍が認められるべきという立場にいる。この様に各界から声は十分に上がって来ている。」

「実際に複国籍者から窮状を求める様な声が上がらないのは、政府が国籍選択制度を形骸化させ、実質複国籍を容認しているからだ。もし、日本政府が国籍を選択しない者から日本国籍を強制的に喪失させたら、日本弁護士連合会も指摘しているが、人権侵害の問題を引き起こす。しかし、いつまでも法制度を形骸化させていいものではない。」

「また、日本国民で外国籍を取得したい者は、海外在住者に多い。生活拠点が海外にある者にとって、日本の政治の場に声を届けることは大変難しい。その苦労なども、なかなか日本の社会には伝わらない。しかし、在外邦人の親睦団体から、複国籍の容認を求める声も上がっている。特にフランス、スイス、イタリア、アメリカ、オーストラリアなど、欧米の在外邦人団体から声が上がっている。」

「アジアの他の国々、例えば韓国が複国籍容認に転じたことなども踏まえ、日本も早急に法改正をお願いしたい。」

黒岩政務官には関連資料のコピーをお渡しし、一読してもらい、法務省の立場の再考をお願いしました。会談の写真で、書類を手渡しているのは、その陳情用資料です。わざわざ、黒岩政務官がその様な形での写真撮影を提案して下さったので、これは陳情を真摯に受け止めました、という意思の表れであったものと受け止めています。

以上、民主党幹事長室団体要望、法務省政務官陳情とも、雰囲気的には賛同を頂けたものであったように思いますが、昨年は法務大臣陳情までしても、実質的な動きが見られなかったことを考えると、全く楽観は許されません。引き続き、要望や陳情、請願などを行って、働きかけを行う必要があると考えます。